台風接近時に出勤させるかどうか、実は人事部員が会社の中で一番悩んでいる

台風などで出勤時間帯の交通機関が乱れそうなとき会社としての対応をどうするか、毎回人事部員は大いに悩んでいる。社会人の皆様は「会社は危険を度外視して無理に出社させようとする」「行っても大して仕事にならないのに...いっそ休めって推奨してくれればいいじゃん」とか思っていらっしゃると思うが、それほど単純な問題でもないのである。


信じてもらえないかもしれないが、真っ先に浮かぶのが「社員のケガだけは何よりも避けたい」という思いだ。会社には法律で定められた安全配慮義務があって、通勤時を含め業務全体を通じて社員の安全を確保しなければならない。パワハラ上司が「電車が動かないなら歩いてでも出社しろ!」などと言いそれを真に受けた社員の頭に路上で何かが飛んできて当たりでもしたら最悪だし、そうした強要がなくても、自分の判断で出社しようとした社員が転んでケガをしたらそれも同じく立派な労災だ。だから、特に社員愛にあふれた会社でなくても「どのような形であれ誰も事故にあわせない」ということを対応の大前提におく。


ただここからが難しい。単純に「今日は危ないから出社するな」と人事がアナウンスすると、会社や最寄り駅の近くに住んでいて交通機関も動いているような地域の社員のサボりを公認することになって社長には「給料の無駄だ」となじられ、各職場の上司からは「仕事の遅れはどうしてくれるんだ」と突き上げを喰らうことになる。


それならと「自らの判断で出社するかどうか決めなさい」とすると、『言われた通り、危ないと思ったんで来ませんでした〜』という社員と、似たような場所に住んでいても『外を見たら来れそうだったので出勤しますた!』という社員との間に不公平が生まれる。いっそ「住んでいる地域と会社の周辺に暴風警報が出ている間は出社しなくてよい」とか外部の判断に委ねたいくらいなのだが、気象庁の予報や警報はエリアも大括りでしかもリスクを避ける方向に偏りがちだし、交通機関の対応もそれに連動するわけじゃないから個々の社員が「今物理的に出社可能かどうか」とピタリ一致する基準としては活用できない。


さらにここに「出勤しなかった社員の当日の勤務や給料の取り扱いをどうするか?」という問題を絡ませるとまたややこしくなる。出勤扱いだと単純に「来たヤツが損」という話になって、会社の尺度では最も賞賛されるべき「できるだけ出社しようと考えて、実際に来れた」という人をデモチさせてしまう。かといって逆に欠勤扱いとすると「少々危なくても来い!」というメッセージと取られかねない。


最初に書いた通り人事の大前提は「ケガ人を出さない」ことであって、欠勤扱いはそれとは別に不公平を産まないよう「ノーワーク・ノーペイ」の原則を適用するだけなのだが、特に月給制の正社員や契約社員にとって基本給を削られると懲戒に匹敵するような重罰を課せられている気持ちになるもので、上記のような誤解を招きがちである。そうするといわれなき「ブラック企業」呼ばわりや、最も恐れるべき「出社を命じられたので家を出たらケガをした」という社員が発生するリスクを人事部自らが高めてしまうことになる。


長々と書いてしまったが、つまり人事として実現したい状況は、

  • 成果を生み出さない給料はなるべく発生させたくない。
  • かといって「危険な状況なのに出社を命じた」と指摘されてはいけない。
  • だから出社可能なら必ず出社させたいし、不可能なら出社が可能となるまで安全な自宅や駅などに留まらせたい。
  • サボり心を起こさせないよう、出社可能な状況なら出社しなければならない、と思わせなければならない。

というものなのである。いったいどうすればいいんだ!


要は社員全員が(会社の尺度で見て)適切に、自宅の周囲や会社までの交通機関の状況を判断したうえで自発的に出社するように仕向けたいのだ。悩んだあげく、人事部員はこんな感じで全社員に通達することになるだろう(今回のように週末なら自宅からメールor休日出勤して)。


『報じられています通り、大型で強い台風18号は西日本の南の太平洋を北上し、まもなく四国の一部が暴風域に入る見込みです。6日にかけて本州の太平洋側にかなり接近して上陸するおそれがあります。明日6日の出勤時間帯は大幅な交通機関の乱れが予想され、既にJRや私鉄の一部では運休が決定されているとのことです。

6日朝は天候や交通機関の運行状況などについて情報を収集し、安全面に十分に配慮して出勤してください。なお危険と判断した場合や会社までの交通期間運休の場合は無理をせず、自宅など安全な場所に留まるようにしてください。』


来なくてもいいよ、とは職務上言いだしにくいものなので、人事部員を許してあげて欲しい。もし皆様の職場で上記より踏み込んだ表現で周知されているとしたら、それはきっと人事部員じゃなくてもっと偉い人の判断です。


どうぞご安全に。


※個人の見解であって、実在の会社・組織とは一切関係ありません。