キヤノン、定期昇給を全廃

キヤノンは8日、仕事の難易度に応じて月給を払う「職務給制度」を4月から全社員に適用する方針を明らかにした。
 すでに管理職に導入しているが、これを一般社員にも拡大する。年功序列で毎年、給料が上がっていく定期昇給を全廃し、「実力主義」で社員のやる気を引き出す。職務給の導入により、同期入社の一般社員の年収格差は現在の150万円から200万円に拡大するという。
 職務給制度は、年功序列の考え方がないアメリカなどでは一般的な制度で、日本でも外資系企業などが採用している。職務と実績が公正に評価されれば、「実力主義」が徹底する。企業が業績不振に陥った場合は、人員削減には手をつけず、職務の変更や評価の見直しで人件費を抑制する運用も可能になる。

昨年一昨年の春闘を契機に定昇(定期昇給)を廃止したと称する企業は多く見られたが、大部分の従業員が事実上毎年昇給し、査定結果によっては賃金据え置きや減給もありうるという制度への置き換えが進んだというだけの話である。キヤノンの制度改定も同様だろう。

仕事の難易度(ジョブグレード)の段階を細かくすればするほど職務級制度の運用は職能資格制度(業務経験に伴って伸張すると考えられる職務遂行能力によって給与を決定する仕組み)と大差無くなる。だから労組も首を縦に振るのであって、「昔みたいに勝手に給料上がっていかないんだよ〜ちゃんと「じつりょくしゅぎ」のトレンドにのっかってるよ〜」という対世間、なかんずく株主に対するアピールに過ぎない。
ただこの記事で気になるのは「企業が業績不振に陥った場合は、人員削減には手をつけず、職務の変更や評価の見直しで人件費を抑制する運用も可能になる。」の部分。純粋職務給の処遇制度の下で企業の業績不振を給与査定*1に反映させる、というのは非常に危険。要するに「企業の業績が悪いのは社員が簡単な仕事しかしてないからだ。だからお前ら全員給与を下げる。」などという無理矢理感ありありの査定をやることがありうるよ、と宣言しているに等しい。これでは一度不況の波をかぶるだけで会社のあちこちで職場崩壊を招くだろう。記者が勝手に書いたのだと信じたいが、キヤノン労務畑の人が本気でこういうことが可能だと考えているのだとすればこの会社の将来に不安を禁じえない。

*1:業績は下方硬直性のある給与でなく賞与に反映させるのが合理的かつ常識的。そんなことキヤノンの中の人も分かってる筈なんだけどね...